2025/12/3

おひとり様安心設計 第2回──判断能力が低下しても“自分らしさ”を守るための仕組みづくり

おひとり様安心設計 第2回──判断能力が低下しても“自分らしさ”を守るための仕組みづくり

──生前代理契約・任意後見契約・移行型の考え方

「判断能力が落ちたとき、自分の希望がきちんと尊重されるだろうか」。
おひとり様に限らず、多くの方が静かに抱える不安です。しかし、この不安は“未来への予測”ではなく、仕組みの整え方によって大きく減らすことができます。

今回は、判断能力低下への備えとして重要な生前代理契約・任意後見契約・移行型について、落ち着いて整理していきます。


■ 1.生前代理契約とは──「いまの自分」を支える生活支援の仕組み

生前代理契約は、本人に判断能力が十分にある段階で使える契約です。買い物の付き添いや病院の手続き、役所での書類取得など、生活の“ちょっとした不便”を補う仕組みとして活躍します。

重要なのは、本人が意思表示できる限り、決定権は常に本人にあるという点です。必要な部分だけを切り出して委任できる柔軟さがあり、「まだ人に任せたくない」という気持ちを尊重できます。

ただし一方で、制限を強くしすぎると、緊急時に代理人が動けない・医療機関や施設で契約書の実効性が乏しいと判断されるなど、“使えない契約”になるリスクがあります。

そのため、生活行為は幅を持たせ、金銭行為は段階的にガードを設けるというバランスが重要です。


■ 2.任意後見契約とは──「将来の自分」を守る法的ガード

任意後見契約は、判断能力が十分にある“いま”作っておき、判断能力が低下した“あと”に効力が発動する契約です。家庭裁判所が任意後見監督人を選任するため、財産管理が適正に行われ、不正が起こりにくいのが特徴です。

ただし任意後見契約は将来のための契約であり、元気なうちの生活支援には対応していません。そこで、生前代理契約と組み合わせる必要があります。


■ 3.「移行型」とは──“今”と“将来”が自然につながる安心設計

生前代理契約から任意後見契約へ、切れ目なくつながる仕組みを「移行型(連動型)」と呼びます。

  • 元気なうち:生前代理契約で必要な生活支援だけ任せる
  • 判断能力低下後:任意後見契約が発動し、財産管理も引き継がれる
  • その後:生活支援 → 後見 → 死後事務まで一貫して担当できる

一貫性があることで、「知らない人に急に人生を預ける不安」や「後見発動時の混乱」を避けられます。また、公証役場で契約内容を作成するため、文書としての信頼性も高まります。


■ 4.「まだ人に任せるのは早い」という気持ちへの寄り添い

生前代理契約には「自分のことは自分でしたい」という気持ちが自然に伴います。しかし、契約は“人生を明け渡す行為”ではありません。必要な部分だけ支えてもらいながら、主体性はそのまま保てます。

安心して任せるためのポイントとして、次のような工夫があります。

  • 毎月・LINE・書面など、報告方法をあらかじめ決める
  • 高額支出には本人の確認を必須にする
  • 決められた範囲以外の行為は禁止する
  • レシートや帳簿で透明性を確保する
  • 相性が合わなければ契約内容を見直すことも可能

制限を「増やす」のではなく、透明性を「高める」ことで不安を減らすことが賢い方法です。


■ おわりに

生前代理契約と任意後見契約は、「いまの自分」と「将来の自分」を守るための二本柱です。判断能力の低下は誰にでも訪れますが、元気なうちに備えを整えることで、将来の自分を安心して任せることができます。

次回は、おひとり様にとって重要な「医療・介護の備え」について、さらに深く解説します。