2025/12/1

おひとり様安心設計 第1回──「いまの自分」を直視するリスク整理

 

おひとり様安心設計 第1回──「いまの自分」を直視するリスク整理

「おひとり様」という言葉には、どこか“さみしさ”のイメージを持たせがちですが、本来は自分の人生を自分で選び、責任をもって歩いてきた尊厳ある姿です。

しかし日本の社会制度には、いまだ“家族前提”の領域が多く、ひとりで老後を迎える方こそ、早めの備えが必要になります。このシリーズでは、行政書士としての実務経験と、人生支援に長く携わってきた視点から、安心して未来を選ぶための仕組みづくりをわかりやすく解説します。

1.判断能力の低下は、誰にでも訪れる

病気や事故、認知症などで判断能力が落ちた場合、「本人の意思」が尊重されない場面が生まれます。家族がいない・遠方で頼れない場合、家庭裁判所が成年後見人を選任することがあります。

制度自体は悪いものではありませんが、
・後見人は自分で選べない
・財産管理が「本人の希望」より「保全」優先になることが多い
といった特徴があります。

自分らしい人生を守りたい人ほど、事前の備えが重要です。

2.入院・手術時の保証人問題

医療機関や介護施設では、緊急連絡先や保証人を求められることがあります。家族が頼れない場合、入院が延期されたり、施設入所が難航したりと不利益が生じることがあります。

こうした場面では、見守り契約・財産管理委任契約・任意後見契約・死後事務委任契約が役立ちます。

3.亡くなった後の手続きが“望む形”にならないリスク

おひとり様の場合、亡くなった後の手続き——葬儀、納骨、役所届出、遺品整理など——を誰が行うのかが課題になります。関係が薄い家族にすべてを任せると、最低限の対応しか行われない可能性もあります。

死後事務委任契約と遺言書のセットは、自分らしい最期を選ぶための強力な組み合わせです。

4.孤立による詐欺・悪質商法リスク

おひとり様は、宅配業者を装う詐欺やSNS・マッチング詐欺、電話勧誘などのリスクがどうしても高くなります。孤立して誰にも相談しない状況が続くと、被害が大きくなりやすいのです。

だからこそ、信頼できる第三者とゆるくつながっておくことが大切です。

5.意思表示を残さないまま時間が過ぎることが最大のリスク

大げさな準備をしなくても構いません。大切なのは、自分の希望を言葉にし、紙に残しておくことです。

  • どんな最期を望むのか
  • どこで暮らしたいか
  • 誰に知らせたいか
  • 財産をどう託すか
  • 医療方針はどうしたいか

こうした“静かな自己決定”こそが、人生後半の安心につながります。

■ おわりに

第1回では、まずリスクの全体像を整理しました。これは不安を煽るためではなく、「知れば対策できる」「備えれば安心できる」という明るい事実を確認するためです。

次回からは、具体的な5つの柱を順に解説していきます。