2025/11/20

《第4回》会社を強くする「お金の習慣」──記帳・予算・補助金の基礎体力

《第4回》 会社を強くする「お金の習慣」──記帳・予算・補助金の基礎体力

法人をつくると、「税金は? 社会保険は? 決算は?」と一気に不安がふくらみます。
けれど、小さな会社を守るうえで本当に大切なのは、難しい専門知識よりも、
「日々のお金の流れをきちんと見つめる習慣」と、「事前に備える姿勢」です。

税金の詳しいことは税理士の専門分野です。
ここでは、行政書士として、そして小さな商いを応援する立場として、
どんな会社にも共通する“お金の基礎体力”についてお話しします。

● 「毎日の記帳」は会社の健康診断

会社のお金の流れは、人間でいえば「血液」のようなものです。
血液検査を何年もしないまま放置するのが危険なように、
帳簿をつけないまま商売を続けることは、とてもリスクの高い状態です。

大げさな会計システムでなくても構いません。
ノートでも、エクセルでも、会計ソフトでも、続けられる形で大丈夫です。

  • レシートや領収書をため込まず、その日のうち・週のうちに整理する
  • 銀行の入出金を月に一度は必ずチェックする
  • 「何に、いくら、なぜ使ったのか」を自分の言葉で説明できるようにする

これだけでも、「何となく減っているお金」から「自分でコントロールしているお金」へと変わっていきます。
もしも将来、税理士さんや専門家に相談するときも、
この「日々の記帳」がきちんとしているかどうかで、相談の質が大きく変わります。

● 「予算を立てる」と、迷いが減る

売上の数字は、景気やお客様の動きによって変わります。
けれど、家賃や光熱費、人件費などの固定費は毎月必ず出ていきます。

そこで大切になるのが、「予算を立てる」習慣です。
予算というと、当てなければいけない「ノルマ」のように感じるかもしれませんが、
本来の役割は、「これ以上は無理をしない」というラインを決めることにあります。

  • 毎月、最低限必要な固定費はいくらか
  • その固定費をまかなうために、どれだけの売上が必要か
  • もし売上が落ちたとき、どこを節約できるか

こうして一度紙に書き出しておくと、
急に仕事が減った月が来ても、「何から手をつければいいか」が見えやすくなります。
予算は、会社を縛るためではなく、経営者の心を守るための道具でもあるのです。

● スタートアップには補助金・助成金という味方がいる

会社を立ち上げたばかりの頃は、どうしても資金に余裕がありません。
実は、国や自治体には創業期の小さな会社を応援するための補助金・助成金が多数用意されています。

たとえば、中小企業庁の「ミラサポplus」では、
小規模事業者や創業者向けの支援策・補助金情報がまとめて紹介されています。
また、日本政策金融公庫では、開業に向けた「創業計画書」や融資の案内も公開されています。

  • 店舗改装や設備導入に使える補助金
  • 販路開拓やホームページ制作を支援する補助金
  • 創業時の融資や利子補給などの制度

こうした制度は、「知っているかどうか」で大きな差が出ます。
ただし、募集の時期や条件は毎年のように変わりますので、
最新の情報を公的なサイトで確認し、必要に応じて専門家に相談することをお勧めします。

● まとめ──会社を強くするのは、数字より習慣

小さな会社がつまずく理由は、必ずしも「赤字だから」ではありません。
むしろ多いのは、「お金の流れを把握していなかった」というケースです。

毎日の記帳、予算を立てる習慣、使える補助金・助成金の存在を知っておくこと。
この三つは、どれも派手ではありませんが、会社を静かに、確実に強くします。

法的な制度やお金の話は、どうしても苦手意識を持たれがちです。
それでも、「会社を長く続けたい」「自分の商いを大切にしたい」という思いがあれば、
少しずつでも、お金と向き合う習慣を持っていただきたいと願っています。

次回は、会社の「名前」と「定款」に、どのように理念を込めていくのか。
経営の原点である「なぜ、この商いをするのか」という問いに立ち返りながら考えていきます。


<参考>
・中小企業庁「ミラサポplus(小規模事業者支援情報)」
・日本政策金融公庫「創業計画書(開業の手引き)」
・各自治体の「創業支援制度」「補助金・助成金情報」(内容は地域・年度により異なります)

文責:岩瀬薫子(行政書士)