2025/11/20

《第3回》合同会社という選択──小回りのきく「柔らかい会社」 ― 自分サイズで経営できる、“しなやかな法人格” ―

第3回 合同会社という選択──小回りのきく「柔らかい会社」

法人をつくるとなると、多くの方が「株式会社」をイメージします。
しかし実際には、もっと柔らかく、自分の生活や価値観に寄り添う形が存在します。
それが合同会社(ごうどうがいしゃ/LLC)です。

合同会社は、会社法が2006年に全面改正された際に導入された新しい会社形態で、
「出資=責任の範囲(有限責任)」という株式会社の安心感と、
内部自治の自由さをあわせ持つ、非常にバランスのよい仕組みです。

● 合同会社の基本的な仕組み

合同会社は、出資者である「社員」全員が有限責任を負います(会社法第576条)。
また、株式会社のように「取締役会」「株主総会」といった大がかりな機関設計は不要で、
社員の話し合い(社員総会)だけで経営が完結します。

これは小規模事業にとって大きなメリットです。
決裁スピードが速く、役員変更も柔軟で、「経営の自由度」が圧倒的に高いからです。

● 株式会社との違い(ポイントだけ整理)

  • 設立費用:合同会社は約6万円~、株式会社は約20万円~
  • 代表者任期なし(株式会社は原則2年〜10年/定款で伸長)
  • 出資比率=議決権ではなく、定款で自由にルール設計可能
  • 役員の交代・追加がスムーズ
  • 決算公告義務なし(株式会社は公告義務あり:会社法第440条)

特に「議決権の自由設計」は大きな特徴です。
出資が1%でも、定款で「意思決定権は代表に集中」といった設計もできます。
まさに“自分サイズの会社”をつくるのに向いた制度です。

● どんな事業に向いているのか

合同会社は、次のような小回りの良さが求められる事業と相性が抜群です。

  • デザイン・IT・アプリ開発など、専門性重視の事業
  • 音楽教室・カルチャー教室・オンライン講座などの教育事業
  • 夫婦・親子で営む小規模事業
  • 地域イベント、コミュニティ運営
  • フリーランスが「法人名義」が必要な場面
  • コンサル・士業補助業務の共同事業

日々の仕事で意思決定を迅速に行いたい場合や、
「柔軟に動ける法人」を求める個人事業主にとって、合同会社は非常に魅力的です。

● コラム:なぜ外資系企業は合同会社(GK)を選ぶのか?

実は、Netflix、Apple Japan、Amazon Japanなど、名だたる外資系企業の日本法人も合同会社です。
理由はシンプルで、経営権と出資構造を柔軟にコントロールできるためです。

  • 議決権の設計が自由(本社の意向を反映しやすい)
  • 株式を発行しないため、持株構造がシンプル
  • 代表者変更が迅速
  • 決算公告義務がないため、経営情報を外部に漏らしにくい

大企業が選ぶ理由は、「柔軟で、静かで、コントロールしやすい」から。
これはそのまま、小規模事業にも当てはまる大きなメリットです。

● 注意点(ここは押さえておきたい)

  • 知名度では株式会社に劣るため、対外的信用は業界差あり
  • 外部投資を受けたい場合は株式会社の方が適している
  • 金融機関によっては“株式会社優先”の姿勢が残る
  • 役員報酬・分配の設計は税務知識が必須

ただし、こうした注意点を踏まえても、
「一人、夫婦、少人数での事業」には合同会社の柔らかさが最適といえる場面がとても多いのが現実です。

次回は、会社経営に欠かせない「お金の基礎」──税金・社会保険・内部管理について、やさしく整理します。

文責:岩瀬薫子(行政書士)