《第1回》小商いと法人設立──“自分の看板”を持つということ
たとえば、ハンドメイド雑貨の販売、オンライン講座、コンサルティング、ピアノ教室──。
自分の名前で、ちいさく、でも誇りをもって続ける仕事。こうした「小商い(こあきない)」のかたちは、ここ数年とても増えています。
はじめのうちは「個人事業主」で十分に感じるかもしれません。開業届を出せばすぐ始められますし、経理もシンプルです。
しかし続けていくうちに、「仕事を法人化したほうが信用が上がるのでは?」という場面に出会うことがあります。
法人化のメリットとデメリット
法人(会社)を設立すると、「代表取締役」「合同会社代表社員」といった肩書きが生まれます。これは取引先や金融機関にとって、信頼を測る一つのサインになります。助成金や補助金の申請、事業用口座の開設もスムーズです。
また、事業を家族や他者に引き継ぐ際にも「法人名義」があることで、事業の継続性が保ちやすくなります。
一方で、法人化にはコストと義務が伴います。
設立登記費用(株式会社で約20万円〜、合同会社で約6万円〜)、社会保険加入義務、決算申告などの手続きが必要になります。
利益が少額の場合は、税や事務負担の面で「個人事業主のままのほうが身軽」というケースも多く見られます。
会社を持つ、という選択
法人とは、法律上の「もうひとりの自分」です。
代表者が病気をしても、亡くなっても、法人そのものは存在し続けます。
その“継続性”こそが、信頼を生み出す最大の要素です。
会社法上、設立できる主な営利法人は株式会社と合同会社です。
どちらも「出資=責任の範囲」が原則(有限責任)で、出資額を超えて個人が責任を負うことはありません(会社法第104条)。
特に小規模事業では、合同会社(LLC)が注目されています。内部自治が柔軟で、役員任期や議決方法を自由に定められる点が特徴です。
“屋号”も立派なブランド
実は、個人事業でも屋号を掲げることで、十分にブランドを持つことができます。
たとえば「〇〇工房」「△△音楽スタジオ」として開業すれば、請求書や銀行口座でもその名前を使えます。
つまり、法人化は“信頼を形にする一つの手段”であり、目的そのものではありません。
大切なのは、「自分の理念を、どんな形で続けたいか」。
法律は、あなたの意思を社会のルールの中で実現するための“道具”です。
次回は、もう一歩踏み込んで──
「夫婦や一人でも設立できる一般社団法人」という選択肢を見ていきます。
文責:岩瀬薫子(行政書士)