2026/4/1

薫子法律 のたりのたり 第1回 サザエさん一家に遺言は必要か

薫子法律 のたりのたり

第1回 サザエさん一家に遺言は必要か

日曜日の夕方になると、ある一家の顔を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

穏やかな住宅街。

ちゃぶ台を囲む家族。

時々騒ぎを起こす少年と、それを叱る父親。

昭和の日本の家庭を象徴するような、あの一家です。

今回は、もしあの一家が実在したら、という設定で「遺言」について考えてみたいと思います。

なお、登場人物の名前は作品への敬意を込めつつ、あえてカタカナ表記にしています。

一家の中心にはナミヘイとフネがいます。

同居する娘夫婦のサザエとマスオ。

そしてカツオとワカメ。

一見すると、とても仲の良い家族です。

テレビの中では大きな相続トラブルなど起こりません。

しかし、行政書士として見ると、少し気になることがあります。

それは「もしナミヘイが亡くなったらどうなるのだろう」ということです。

まず気になるのは自宅です。

あの家は誰の名義なのでしょう。

仮にナミヘイ名義だとします。

もしナミヘイが遺言を残さず亡くなった場合、法律上の相続人はフネ、サザエ、カツオ、ワカメです。

長年同居しているマスオは家族同然ですが、法律上の相続人にはなりません。

ここは意外と誤解されやすいところです。

「実質的には息子だから」

「一緒に暮らしているから」

という事情と、法律上の相続権は別の問題なのです。

では、相続が始まったら誰が家を引き継ぐのでしょう。

フネがそのまま住み続けるのか。

将来はサザエ一家が引き継ぐのか。

それとも売却するのか。

話し合いでまとまれば何も問題はありません。

しかし現実の相談現場では、その「話し合い」が難しいこともあります。

誰かが悪いわけではありません。

同居して親を支えてきた人。

遠方で暮らしていた人。

介護を担った人。

それぞれに事情があり、それぞれに思いがあります。

だからこそ、遺言には意味があります。

遺言というと、

「財産がたくさんある人のためのもの」

と思われがちです。

けれど私は、そうではないと思っています。

遺言は財産のためではなく、家族のために作るものです。

たとえば、

「自宅はフネが安心して住み続けられるようにしてほしい」

「その後はサザエに引き継いでほしい」

そんな思いが残されているだけでも、家族はずいぶん助かります。

実際の相談でも、

「うちは仲が良いから大丈夫です」

とおっしゃる方は少なくありません。

そして本当に仲が良いご家族が多いのです。

それでも相続が始まると、

誰も悪くないのに話がまとまらないことがあります。

相続は、お金の問題である前に、家族の問題だからです。

親への思い。

兄弟姉妹との関係。

介護の記憶。

長年積み重ねてきた感情が、一度に表に出ることがあります。

だから私は、

「遺言は家族への最後の手紙」

のようなものだと思っています。

もしナミヘイが私の相談者だったら、こんなお話をするかもしれません。

「ご家族が仲良しだからこそ、今のうちに気持ちを書き残してみませんか」

と。

人生の終わりを考えることは、縁起でもないことではありません。

大切な人たちへの思いやりの形なのだと思います。

さて、皆さんのご家庭ならどうでしょう。

もし明日、相続が始まったとしても、家族は迷わないでしょうか。

そんなことを、日曜日の夕方にふと思いながら、私はあの一家を見ているのです。


薫子法律 のたりのたり

アニメと映画と人生と、ときどき法律。

※アニメや映画の世界と現実の法律は少し違います。本コラムは作品を楽しみながら法律を身近に感じていただくための読み物です。実際の法的判断は個別の事情によって異なります。相続や遺言について気になることがありましたら、お気軽に専門家へご相談ください。