2025/11/8

50代から挑む行政書士試験――「今さら」ではなく「今だから」|ミドルシニアの挑戦力シリーズ(岩瀬行政書士事務所)

50代から挑む行政書士試験――「今さら」ではなく「今だから」

「若い人のほうが有利なんじゃないか」。試験が近づくほど、そんな声を耳にします。私は、そのたびに静かに頷きながら、こう答えます。行政書士は“資格”でありながら、実は“生き方の再設計”そのものだと。

開業してからの私は、決してまっすぐではありませんでした。ある起業コンサルの言葉を鵜呑みにして、「とりあえず建設業許認可が儲かるらしい」と走り出した時期もあります。けれど、どうしても熱が入らない。お客様のために全力でやるのだけれど、心のどこかがピンと来ない。そんな迷走の季節が、たしかにありました。

今ふり返ると、その時間は無駄ではなかったのです。「自分は、誰の役に立ちたいのか」――この問いに向き合うには、少しの遠回りが必要でした。依頼がバラバラに見えた時期ほど、私は誠実に受け止め、調べ、手を動かしました。ご祝儀受注のように見える最初の仕事も、丁寧にやり切れば次の信頼に変わる。“仕事の幅”より“信頼の深さ”が、最終的に自分の専門性を形づくっていくのだと知りました。


「今だから」できる学び直し

50代、60代で挑む学び直しには、若い頃にはなかった強みがあります。経験の文脈があるから、条文や制度の意味が生活の実感に結びつきやすい。記憶ではなく、理解で覚えるというやり方ができるのです。受験の机に向かいながら、私は何度も自分の過去の現場を思い出しました。お客様の顔、声、ため息。あの場面に、この一条があれば――そんなふうに、法律が血肉になっていく感覚。

資格は切符です。旅はこれから。
そして切符を手に入れる努力の時間そのものが、すでにプロへの準備になっています。

ビジョンが弱くても、歩き出して見えてくる

「ビジョンが弱いのですが」と相談されることがあります。大丈夫。歩き出して、受け止めて、誠実に返す。その往復運動のなかで、やがて輪郭が現れてきます。私自身、方向性を見つけるのに時間がかかりました。だからこそ言えます。焦らず、でも止まらず。今のあなたの迷いは、未来のお客様に寄り添う力になります。

「一人DX」は、孤独を減らすための道具

もし開業までの時間に余裕があるなら、「一人DX」をおすすめします。ITは、ひとりで働く人の強さになります。文書のドラフト、記録の整理、予定の見える化、ホームページやブログの更新――いまは道具が味方をしてくれます。昔ほど“ひとり開業”は重労働ではない。道具に背中を押してもらいながら、目の前のお客様に集中できます。

合格はゴールではなく、はじまりの挨拶

試験が終わると、嬉しさと同時に不安が押し寄せます。「雇ってもらえるのは若い人が多いのでは」「自分にできるのだろうか」。そのとき思い出してほしいのは、行政書士も結局は“ふつうのビジネス”だという事実です。商品がモノではなく、お客様の不安を軽くする時間と手続きの工夫だというだけ。だから、誠実さ・わかりやすさ・約束を守る――この基本が、必ずあなたを助けます。

大阪府行政書士会には、各種の研修や頼れる先輩がいます。どうか安心してください。扉は、思っているより低いところにあります。ノックして、入って、学び続ける。それで十分、最初の一歩になります。


あなたへ――試験直前の小さな手紙

  • 自分を信じる――合格点は、今日までのあなたの積み重ねの先にあります。
  • 出会いを大切にする――最初の依頼は“ご祝儀”かもしれない。でも、誠実に返せば次につながります。
  • 比べない――年齢も経歴も他人と競うためのものではなく、支えるための道具です。

試験が終わったら、空を見上げてください。「やり切った」と胸を張れる自分が、すでに次の一歩を踏み出しています。

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明日の公開予定:「資格を“使う”ということ──知識をどう社会につなげるか|試験当日に寄せて」
合格後の現実と、ビジョンの見つけ方を、やさしくお届けします。